今までクレヨンや色鉛筆の世界しか知らなかった頃、えのぐを目にした時の高揚感を
今でもハッキリ覚えています。
通っていた幼稚園で牛乳パックに色をそれぞれたっぷりと作られていて、
お水に色がついていることへの衝撃と、タプタプとした感触。
とにかく『絵を描きたい』より先に、『触れてみたい』が先行したのを覚えています。
その日から毎日私は絵具あそびの住人になり、幼稚園へ行くと時間が許す限り絵具で
遊びました。
よしみのおにぃちゃんは、えのぐばこを持っています。スケッチブックに得意げに
上手に絵を描いています。
よしみはおにぃちゃんに『よしみも絵を描きたい。』と言います。
いつも『だめだめ』と言われてしまいます。
また次の日もおにぃちゃんにせがみますが、
『これは だいじな まほうのえのぐだから だめだめ』と諭されます。
『わたしもかきたい。まほうのえのぐでかきたい。』と絵具箱をつかんで離さないよしみ。
おにぃちゃんはとうとうかしてくれました。
よしみはパレットに赤、青、黄色、緑の絵具を出し、スケッチブックにペタペタと
筆を這わせます。そうしているうちに、色が全部混ざって、
茶色のどろんこの絵が完成しました。
よしみが描きたかった絵と違うものが出来上がりました。
おにぃちゃんにもからかわれて、
『まだ出来上がりじゃないもん』と言います。
横からヘビさんがシュルシュル~と出てきて、赤色の絵具をくわえて森の奥へ。
よしみは慌ててヘビを追いかけます。
葉っぱをかき分け、しげみをのぞくと、
ヘビの他に、カラスやリスや、キツネやクマが葉っぱに絵を描き始めていました。
よしみも森のみんなと一緒に絵を描き始めます。
ヘビは全身を使って絵を描き、カラスは町の風景を、キツネは自分のしっぽを筆にして、
みんなで絵を描き上げます。
おにぃちゃんは最後よしみの完成した絵をみて、
『ほんとうに まほうのえのぐだ。』とびっくり感激するお話です。
見事に子どもの頃に経験したあの高揚感を思い出しました。
絵を描く楽しさがみずみずしく描かれています。
《著者紹介》
林 明子(はやしあきこ)
1945年、東京に生まれる。横浜国立大学教育学部美術学科卒業。
70年より雑誌『母の友』にカットを描き始め、73年『かみひこうき』で初めて絵本を
手がける。子どもたちの生き生きとした表情やしぐさを描いた作品は、多くの人に
愛され、世代を超えて読み継がれ、絵本にっぽん賞、サンケイ児童出版文化賞美術賞など、数々の賞を受賞している。
『はじめてのおつかい』『あさえとちいさいいもうと』『いもうとのにゅういん』
『とん ことり』『きょうはなんのひ?』『おふろだいすき』『はっぱのおうち』など
多数の絵本のほか、自作の絵本に『こんとあき』『くつくつあるけのほん(全4冊)』
『クリスマスの三つのおくりもの(全3冊)』『でてこいでてこい』、
幼年童話に『はじめてのキャンプ』がある。挿絵に『魔女の宅急便』『なないろ山のひみつ』(以上、福音館書店)、『ガラスのうま』(偕成社)がある。長野県在住。
※絵本より引用