この絵本は本当にあったお話を題材につくられました。
モデルとなった父と娘のお話で、住んでいた谷にダムが建設されることになり、
慣れ親しんだ故郷は水の中に埋まり、別の場所に移って生活することになりました。
ダムに沈んだ谷には、農場や学校、鉄道の線路、人々の暮らす家がありました。
そうした家々には、たくさんの音楽家が住んでいて、ダムが建設された、
ノーサンバーランドの谷間で演奏し、音楽の活気にあふれていました。
ダムが完成すると、谷は水でいっぱいになります。
暮らしていた人々は、家に板を打ちつけ、引っ越していきました。
少女はダムが完成する直前に父とふたりで、谷に出かけ、家に打ち付けられていた
板を剝し、中に入り、空っぽになった家の中で、
バイオリンを演奏し、父がそのとなりで歌い最後の演奏をしました。
そして、他の家々も一件ずつまわり、同じように最後の演奏をし、
その谷を音楽でいっぱいに満たしました。
娘さんは今も民族音楽家として活躍し、父も歌手で作曲家です。
この谷で育まれた音楽は、ダムによって水の中に埋まってしまったも、
生き続け、受け継がれていっている様が描かれています。
生まれ育った場所が、水の中に沈んでしまって、家も、人々もバラバラになり、
植物や動物もいなくなってしまったけれど、体に刻みこまれた音楽、
受け継がれた精神、魂は、永遠に沈むことはなく、今も生き続けているんだよという
メッセージが、とてもきれいな絵と、短い文章からひしひしと伝わってきます。
少し切なく、でも悲しいだけではなく、強い故郷への愛を感じられる絵本です。
子どもにも大人にも読んで欲しい一冊です。
本当にあった出来事をもとに、国際アンデルセン賞受賞作家と、
ケイト・グリーナウェイ賞受賞画家が描いた尊い命と、魂の物語りです。
《著者紹介》
文:ディヴィッド・アーモンド
1951年生まれ。国際アンデルセン賞受賞作家。1998年、『肩胛骨は翼のなごり』(東京創元社)でデビュー。この作品でカーネギー賞を受賞する。その他の作品に『パパはバードマン』(フレーベル館)、『ミナの物語』(東京創元社)、『星を数えて』(河出書房新社)などがある。イギリスのノーサンバーランド州在住。
絵:レーヴィ・ピンフォールド
イギリスの画家。ファルマス大学卒業後、フリーのイラストレーターになる。
The Djangoでデビューし、2作目の『ブラック・ドッグ』(光村教育図書)でケイト・グリーウェイ賞を受賞。現在、オーストラリア在住。
翻訳:久山太一
英米の絵本・物語を中心に活躍する翻訳家。
おもな絵本の翻訳に『ずーっとずっとだいすきだよ』『ポールのまじゅつしウィリー』
『ネコのニャゴマロ』『グラファロ』『グラファロのおじょうちゃん』『まじょとねこどん ほうきでゆくよ』(以上評論社)などがある。
※絵本より引用
【文:デイヴィッド・アーモンド 絵:レーヴィ・ピンフォールド 訳:久山太市
出版社:評論社】