この絵本『きりの なかの サーカス』は、最大の特色は、『霧』を表現するのに、
トレーシングペーパーを使用していること。作者のムナーリは子どもに、
『霧』がどんなものかわからせるには、どんな言葉を費やしてもあまり効果がなく、
『霧』の感じがする素材に絵をのせれば、ずっと簡単に表現できると考えたそうです。
霧がかかるだけで、日常の世界が、急に不思議な、見知らむ神秘的な世界に見えて、
先がわからない、見えなさに、心細くなる気持ちと、
いつもと違った世界に迷い込んだようなドキドキ感が絵本からも伝わってくる。
トレーシングペーパーは全てはっきりと透けてるわけではなく、
なんとなくぼんやりと次のページを漂わせ、まるで霧の中を歩いているみたいな気持ちになる。
霧を抜けると、絵本の中心ページは鮮やかなサーカスで彩られ、
これまた現実離れしたような、別世界が登場する。
絵本はカラフルな画用紙が何ページにも渡り、穴が開いていて、しかけいっぱいに、
サーカスを表現している。
とこどころに散りばめられた短い言葉は、
谷川俊太郎さんの詩で綴られ、この不思議な世界を彩る素敵なスパイスになっている。
そして鮮やかなサーカスの世界を抜けると、また濃い霧の中を抜け、
家に帰る(現実に戻る)というお話。
サーカスの前後に霧の時間(モノクロページ)があることによって、
よりサーカスが浮世離れしたような色鮮やかな世界(特別な時間)に見える。
子どもは透けるトレーシングペーパーと、初めての手触りに感動していました。
視覚的にも、触感的にも、初めて出会った絵本だったよう。
五感を刺激してくれる作品です。
【作:ブルーノ・ムナーリ 訳:谷川俊太郎 出版社:フレーベル館】