おばあちゃん2人からそれぞれにプレゼントされた、色違いの同じクマのぬいぐるみ。
アリスはしろいクマも、茶色のクマのぬいぐるみどちらも同じぐらい好き。
でも白いクマも、茶色のクマも、自分を一番好きになって欲しくて、
アリスを奪って、毎日言い争い、喧嘩ばかりしている。
アリスと夜寝る時には、どちらのぬいぐるみも、アリスの一番近くで寝たくて、
アリスにくっついて寝るし、毛布も取り合うから、アリスはゆっくり眠れない。
一緒に遊ぶときにも、アリスは平等に2匹を自分の近くに置きますが、
しだいに取っ組み合いが始まってしまいます。
お昼にピクニックした時には、茶色クマにマヨネーズをかけたり、
今度は白いクマにジャムを塗ったり、アリスは我慢できなくなって、
とうとう白いクマを暗いクローゼットのなかへ、茶色のクマは高い棚の上に置いて、
2人が喧嘩しないように離しました。
アリスはこれで喧嘩しなくなるわと思いました。
棚の上におかれたちゃいろいクマは、目がまわって下を見られません。
ようふくダンスのなかでは、しろいクマが泣き出しました。
ひとりぼっちだし、くらいところが、こわかったのです。
しろいクマは大きな声でちゃいろいクマをよびました。
『どこにいるの?』
『うえのほうなんだ。おっこちそうで、こわいよ。』
『たすけたいけど、ようふくダンスにとじこめられちゃったんだ。』
ちゃいろいクマは、しろいクマをたすけようと思いました。
あたりを見回すと、近くにたこがありました。
ちゃいろいクマはドキドキしながらタコのところへ上っていきました。
『きみならできるさ!』ようふくダンスのなかから、
ちいさな声がきこえてきます。
ちゃいろいクマはしろいクマがおうえんしてくれるので、きもちがつよくなりました。
そしてようふくダンスのまえにたこにのって、おりました。
ようふくダンスの扉をあけて、中に入りました。
『もう、だいじょうぶだよ!』
とつぜん、おおきなおとがして、まっくらになりました。
ようふくダンスの扉がしまったのです。
ちゃいろいクマは泣き出しました。
それからすこしして、ようふくダンスの中は静かになりました。
アリスはようふくダンスの扉をあけてみると、
しろいクマとちゃいろいクマは、ようふくにつつまれて、ねむっていました。
2ひきのクマは、しっかりだっこしながら、ぐっすりねむっていました。
もう、こわいものはなにもありません。
まるでアリスがお母さんで、クマが子ども、兄弟みたいなお話。
クマの気持ちは、幼少期に誰もが味わった感情。
お母さんの取り合いっこ。だれか珍しい人が遊びにきてくれたときには、
その人を取り合いっこ。帰ってしまうと、またお母さんが一番。
お母さんに愛されたい、好きになってもらいたい子どもの気持ちと、
喧嘩をしながらも、助け合う兄弟の絆。喧嘩するほど仲がいい。
2匹のクマのぬいぐるみの成長が、子どもの心の機微を映し出す。
兄弟喧嘩も喧嘩する相手がいるからこそ、経験できること。
そして仲良く遊べば、楽しさも倍増、喜びや悲しみを分かち合う幸せを、
教えてくれる一冊。
【作:スヴェトラーナ・ペトロヴィック 絵:ヴィンセント・ハーディー
訳:ゆづきかやこ 出版社:小峰書店】