国際アンデルセン賞画家賞受賞作品で、インノチェンティの傑作。
1656年に作られた家を、1900年に、すでに廃屋となっていた家を、
子どもたちが見つけて、再建し、そこからの100年を、家の目線で語られていく物語。
その100年の間に、家族が増え、幸せな時間、作物が実り、生活の豊かな時、
そして家族の死、戦争、災厄、山火事などの苦しい時を一緒に乗り越え、
時代とともに家族の形を変え、生活が変化し、家はそれを定点観察のように、
見守っている物語の構成になっている。
家はだたの箱ではなく、家族の歴史、思い出、足跡を残すもの。
そしてそこに住む人々を、家は優しく受け入れ続ける。
何度も、何度も季節がめぐりながら。
5年がたち、根付いたブドウの木が、新しい芽をつけた。
ここに住むことにした人たちは、
工夫を重ねて、強い品種の果樹を育てる。
そして10年後娘は結婚した。
2人の結婚式も、この家で行われた。
とても幸せな時。たくさんの人が祝福するため、この家に集まった。
まもなく子どもが生まれて、新しい家族を迎えた。
戦争が始まり、兵隊だった夫を失った。
みんなが無邪気でいられた時間は、すてきだった。でも、短かった。
寒い冬を超え、家の周りに植えた果樹はたわわに実をつけ、
ぶどうジュースを家族や近所の人総出で、作った。
そして刈り入れの日。果てしない小麦との戦い。
収穫量が多いことを願って。
やがて戦争により、家が最期の避難場所になり、
何もかもなくした人たちを、受け止めた。
それから時は進み、息子が母親の元を離れて、街へ移り住む日がやってきた。
昨日までの名残をすべて、バッグに詰め込んで。
今までの暮らし方を継がない。それが新しい世代だ。
だが、若さだけでは、この家の古い石は、取り替えられない。
この家がわたしだ。けれども、わたしはもうだれの家でもない。
運命をたどってきたわたしの旅の終わりも、もうすぐだ。
20年後のわたしは、墓の土になっているだろう。
私は独りのまま、うごけないのだ。
野生のものが、自然のちからが、入り込んできて、
わたしをささえる玉石は崩れ落ち、跡形もなくなるだろう。
なくなったものの本当の護り手は、日の光と、そして雨だ、と。
そしてまた誰かの手によって、生まれ変わる。
また家族の歴史が季節と一緒に、めぐるのだ。
ずっと家を中心に視点を置きながら、移り行く季節、そして周囲の風景、住む人々が、
はいってくる。
家が最初から最後まで、静かに私たち読者に語りかけてくれる。
緻密な絵が、とても見ごたえがある絵本です!
《著者紹介》
絵:ロベルト・インノチェンティ
1940年生まれ。『エリカ 奇跡のいのち』『くるみわり人形』『ピノキオの冒険』などの作品で知られる世界的な絵本画家。2008年に国際アンデルセン賞画家賞受賞。イタリア、フィレンツェ在住。
文:J.パトリック・ルイス
1942年生まれ。経済学の教鞭をとった後、詩人絵本作家として活躍。今日、アメリカの卓越した作家として知られている。主な作品に『ラストリゾート』がある。アメリカ、オハイオ州在住。
※絵本より引用
【作:J・パトリック・ルイス 絵:ロベルト・インノチェンティ 訳:長田弘
出版社:講談社】