最初から最後まで、丸い円の中に描かれる、光と影。
のぞき穴から、そっとのぞくように、
ぽっかりと開いた穴が、閉じたり、開いたりしながら、
夜明けの世界がゆっくりと広がり、近づいてきます。
夜明けを静かに待つおじいさんと、孫。
湖のほとりは、音もなく、とても静かに凪いでいます。
月明りがぼんやりと、水面を揺れながら。
そよかぜが吹くたびに、水面に小さなさざ波が立ち、
月夜が揺れ動く。
時折、カエルが飛び込む音が聞こえ、
草と草がそよ風にぶつかる音がかすかに聞こえてくる。
白く、ぼんやりと靄がたちこめている。
おじいさんがもうすぐ夜明けだど、毛布にくるまって寝ている孫を起こす。
ふたりは水を汲んできて、焚火で冷えた体を暖める。
湖にボートを押し出し、しずかに漕ぎ始める。
そのとき、
急に山も、湖も、色鮮やかな緑になった。
ユリー・シュルヴィッツの作品で一番好きな作品です。
夜明け前の静けさ、水面に浮かぶさざなみ、
夜明けまではほの暗い中に、月あかりだけが頼りで、
しだいに空が白んでいき、火をおこし、やまとみずうみが
今までの世界とは180度違う色彩の艶やかさで描かれ、
目を奪われる。
絵本から光を放っているように、まぶしくて思わず目を細めてしまいそうです。
《著者紹介》
作:ユリー・シュルヴィッツ
4歳で第2次大戦にあい、各地を転々としたのち、1959年にアメリカに渡りました。
そこで2年間ブルックリンの絵画学校に学び、やがて子どもの本の仕事を始めました。
これまでに『空とぶ船と世界一のばか』(コールデコット賞受賞、岩波書店刊)や
『あめのひ』(福音館書店)など、すぐれた絵本を数多く作っています。
東洋の文芸・美術にも造詣が深く、この絵本『よあけ』のモチーフは、唐の詩人柳宗元の詩『漁翁』によっています。
※絵本より引用
【作・絵:ユリ・シュルヴィッツ 訳:瀬田貞二 出版社:福音館書店】