表紙に惹かれました。
切り絵は、ハサミやカッターナイフの刃で、紙を切って生まれてくる世界。
刃で切ったとは思えないほど、女性の身体の柔らかいラインや、
気は植物の繊細な曲線が見事に表現されていて、
真っ白な紙なのに、色鮮やかに、そして、
そこに吹き抜ける風までを感じられる奥行きのある絵本です。
白い紙の丘に、屋根も、窓も、壁も、真っ白な小さな家。
白い紙から生まれた娘が住んでいます。
庭の草花に水をやったり、となりの丘を眺めたりして過ごしています。
刃物で切ったとは思えないほど、草花の柔らかい曲線や、むすめのカールした髪型、
ジョウロから出る水の流れる道筋まで、とても柔らかく、
繊細で、草花が風に揺れる動き、やわらかな風を感じられます。
丘には、まだ一件の家しかなく、庭の草花と話して過ごします。
ある朝、洗濯物を干していると、一枚の大きな白い紙が、
風に乗ってふわりと飛んできました。
むすめは、家の宝箱から小さなハサミを取り出し、
乗ってみたかったヨットや、気球をハサミで切って作りました。
初めての船旅は最高でした。
でも、こんな美しい景色、体験を話す相手がいません。
パーティーを開いたら、誰か来てくれないかしらとむすめは考え、
残りの紙をチョキチョキと切って、パーティーに着るドレスを切ったり、
オルゴールをならし、パーティーの準備は整っているのに、
やはり誰も来ません。
悲しくなって、涙が出ました。
涙が手のひらの種の上に、涙のしずくが落ちました。
娘が窓の下に、その種を落とすと、
次の朝、庭に大きな紙の実をつけた木が育っていました。
これで、なんでも作れるわと、チョキチョキと切り始めました。
犬にネコに、ライオンに、小鳥の親子、メリーゴーランドに。
木に残った残り2枚の紙で、小さな家を切って、ことりさんに、
向こうの丘に運んでもらいました。
すると、向こうの丘の小さな家から、誰かが手を振っています。
最後の一枚の紙で、向こうの丘とつなぐ架け橋を切りました。
ときどき二人の間にある橋の上で会いましたというお話。
真っ白な一枚の紙から、こんな情緒豊かに、美しい情景が
生まれるなんて、感動しながら、ページをおくりました。
大人にもおすすめしたい美しい絵本です(*^^)v
《著者紹介》
文:ナタリー・ベルハッセン
1983年、イスラエルのテルアビア近くの町、クファルサバに生まれる。
大学で生物学と文学を学び、大学院で文学を修める。子どものころから児童文学作家になることを夢みていた。デビュー作である本書では、子どもたちに、ナオミの切り絵芸術を紹介するとともに、夢をかなえる力や自分を実現させていく力、世界を創造する力を誰もがもっているということ、また、愛する人と夢を語り合うことのすばらしさを伝えたかったという。
絵:ナオミ・シャピラ
9歳のころから切り絵技法を学び、以来40年以上この芸術を極めてきた。
グラフィックデザイナーとして活躍する一方、ワークショップや学習障がい児へのセラピーとして切り絵を教えている。『切り絵は、芸術的にも哲学的にも、とても奥深いものです。紙を切るという単純な作業から生まれる素朴な芸術ですが、何を切り抜き、何を残すかという選択を重ねて絵を完成させます。それは、人生と同じようなもの。何を選び取り、何を捨て去るか 失った部分がより鮮明に絵を際立たせるのです。』
と語っている。
※絵本より引用
【文:ナタリー・ベルハッセン 絵:ナオミ・シャペラ 訳:もたいなつう
出版社:光村教育図書】