ちいさなおひっこしと聞いて、何を浮かべるだろう?
近くへのお引越し(距離感)、小さな家のお引越し、少ない荷物での身軽なお引越し。
そんなささやかなお引越しをイメージして、
淡いタッチで描かれた絵本を手に取りました。
それは私の予想を裏切り、不思議な絵本の世界への入口でした。
この黄色いおうちには、家族4人と犬が一匹で、
大きな家ではないけれど、普通のおうち。
家族は気に入って住んでいました。
ある日女の子が、ベッドが小さくなってきたと言い、
お兄ちゃんも、椅子にのらないでも、本棚のってっぺんに手が届きそうと話していました。
子どもの成長は早いもので、背が伸びたのかもしれません。
しかしその話を聞いていた両親もまた、自分たちが身長が伸びたんじゃないかと感じていました。
なぜならお父さんはドアの天井で頭を打ったり、お母さんはシンクが低くなったなと
感じていたからです。
子どもが成長するのはわかりますが、大人になって急激に背がのびるものでしょうか?
また、ある日女の子はいよいよベッドに頭がつかえるようになり、
男の子はジャンプすれば部屋の天井に手が届くように。
お父さんやお母さんも何かおかしいと感じていました。
なんだか私たちが大きくなっているのではなくて、
まるで、おうちが小さくなっているみたい。
周りの家具や、お洋服、食器や家電にいたるまで。
ボーンボーンと大きな音がしていた柱時計はポーンポーンと小さくなり、
蛇口の水はちょろちょろと細く水が出るだけに。
フライパンでは目玉焼きが一度にひとつしか作れず、
スープもみんなで5はい、6はいずつおかわりしなくてはなりません。
そしてついに、玄関のドアをくぐれなくなったある日、
庭に新しい家を建てることにしました。
庭はかろうじて小さくなっておらず、元の家が小さくなった分、
空き地ができていました。
そして新しい大きな家が完成し、一家は住み始めました。
とうとう小さくなった家は、これ以上小さくなるのをやめたようです。
そして、ある日玄関のしたから小さな手紙がさしいれられました。
そこには、小さな文字で、隣に引越してきました、と書いてありました。
いったい誰が住んでいるんでしょう?
お家がだんだん小さくなっていく、まるで服が小さくなって着れなくなるみたいに。
子どもはとても不思議そうに、興味深々で絵本を眺めていました。
ちょっと不思議で、奇妙な世界に誘ってくれる一冊です。
予想していなかった結末、色鉛筆の優しくやわらかなタッチの絵が、
どこか別の異世界へ迷い込んだような、不思議な読了感に包んでくれます。(*^^)v
《著者紹介》
熊本県に生まれる。東京芸術大学絵画科、同大学院卒業。フランスに留学して絵本、
人形の仕事を始め、帰国後、フランスと日本の絵本や挿し絵の仕事を手がけている。
絵本に『おばあさんのうちへ』(こどものとも・福音館書店)、『トトコのおるすばん』(ハッピーオウル)、『おさんぽ』(江國香織文/白泉社)など。
※絵本より引用