阪神大震災で、亡くなった人、壊れた建物、失われた街並み、
被災された人々を元気づけるための、大震災復興支援コンサートのお話です。
男の子は、飼っていた犬を亡くし、お父さんが新しい犬の代わりにと、
チェロを買ってくれ、それから男の子はチェロ教室に通っています。
今日はそのチェロ教室に、新しい生徒の女の子が入ってきました。
どうやら男の子と同じ年ぐらいの子です。
女の子は、ぼくよりも難しい曲を弾いているけど、
なんだか怒っているみたいな音だなと感じました。
教室の帰り一人で歩いていると、後ろから女の子が声をかけてきて、
二人は公園に行って、チェロを弾き始めます。
女の子は、小鳥の声も、風の音も、川の音もみんなチェロの音で表現し、
女の子としばらく話していると、神戸から越してきて、
阪神大震災を経験したことを知りました。
その時に避難所に動物は連れていけなかったので、飼っていた小鳥と別れたそう。
公園から大通りに出ると、チェロのケースを抱えた大人の大群を見つけ、
思わず二人はその後を追いかけていく。
そこで一人のおじさんに出会い、復興コンサートの事を聞く。
女の子は迷わず、コンサートへの参加を決め、男の子も一緒に参加することになりました。
練習に通うたび、二人の音は少しずつ優しくなっていく。
当日は1000人のチェリストが外国、日本の各地から集まった。
1000人の人の物語りが、人生が、チェロの音に乗って、風になって、波になって、
押しては返し、吹き抜ける。
1000の音が、ひとつの心となる。そしてみんなの気持ちが重なり合う。
著者のいせひでこさんは、実際にこの復興コンサートの1000人の演奏者の一人であり、
絵本を描き上げたそうです。
私も学生時代の部活動で、オーケストラに所属していたことがあり、
舞台にたったときの描写や、音が一つになったときの感動、
たくさんの楽器の音が一つの波なり、風になる瞬間のこと、
その瑞々しい言葉と繊細な水彩画に、共感と静かな興奮を覚えました。
同じ経験をしていなくても、気持ちを重ねることはできる。
心をひとつに、どうか誰かの心にに届きますように、
そんな願いが込められた一冊です。
《著者紹介》
1949年、北海道に生まれる。東京芸術大学デザイン科を卒業。主な絵本作品に『水仙月の四日』(産経児童出版文化賞美術賞)、『雪女』(ともに偕成社)、『むぎわらぼうし』(絵本にっぽん賞)、『よだかの星』『雲のてんらん会』(以上講談社)などがあり、その他の作品に、創作童話『マキちゃんのえにっき』(野間児童文芸新人賞・講談社)、エッセイ『カザルスへの旅』『空のひきだし』『グレイのしっぽ』(以上理論社)、『画集「死の医学」への日記』(新潮社)などがある。自らもチェロを弾き絵を描く生活の中からこの作品は生まれた。
※絵本より引用