野原の真ん中にある、緑色のベレー帽がトレードマークのくまさんが営む楽器店。
お店の名前は「ふしぎや」。そこには、不思議な魅力を持った楽器がたくさんあります。
お話は、『ふしぎなトランペット』『月夜のハーモニカ』『野原のカスタネット』
『さむがりうさぎの すてきなたいこ』の4つの物語で構成されています。
お客は人から動物まで、何か困っていることがあり、
気が付くと、くまの楽器屋さんにたどり着きます。
登場する全員が楽器を目当てに楽器店に訪れたわけではありません。
お腹が空いているネズミ、寒い冬にまいっているうさぎ、雨ばかりで困っている少年、
ぶどうの実が甘くならなくて困っている農家のおじいさん。
ふしぎやのくまさんは、一人一人、一匹一匹に寄り添い、話しを聞き、
それぞれに合った楽器をおすすめします。
みんな楽器を買うつもりはなかったのですが、楽器をいざ手にとってみると、
楽器の音色に魅了されます。そして不思議なことが起こります。
雨ばかりで困っていた少年がトランペットを吹いていると、
毎日雨続きだったのに、急に雲が流れて、空に晴れ間が広がっていきます。
葡萄が甘くならなくて困っていたおじいさんは、
ハーモニカを毎日ぶどうの木の下で奏でていたら、甘い葡萄になりました。
お腹を空かせたネズミは、渡されたカスタネットを木の下でたたくと、
美味しい木の実がぽとぽとと次から次へと地面に落ち始め、お腹いっぱい、
気持ちいっぱいに満たされました。
寒がりのうさぎは、太鼓をたたいているうちに、
春の野原で何度もでんぐり返しをしたように、
体がポカポカとしてきました。そして心もすっかり春の陽気に。
楽器や音楽がいろんな人や、植物や動物に、影響し、
信じられないような不思議な良いことが起こり始めます。
音楽が世界を癒していく様子が、こみねゆらさんが描く淡いタッチの絵で、
その優しい世界観を表現していて、どちらも素敵なお話です。
小学校低学年の子の一人読みにおすすめな絵本です!
《著者紹介》
1943年、東京に生まれる。日本女子大学国文科卒業。在学中より山室静氏に師事、「目白児童文学」「海賊」を中心に、心に残る数々の美しい物語を発表。1993年永眠。
『さんしょっ子』で第3回日本児童文学者協会新人賞、『北風のわすれたハンカチ』で第19回産経児童出版文化賞推薦、『風と木の歌』で第22回小学館文学賞、『遠い野バラの村』で第20回野間児童文芸賞、『山の童話 風のローラースケート』で第3回新美南吉児童文学賞、『花豆の煮えるまでー小夜の物語』でひろすけ童話賞、赤い鳥文学賞特別賞ほか、多数受賞する。
絵:こみねゆら
熊本県生まれ。東京芸術大学絵画科油画・同大学大学院修了。その後、フランス政府給費留学生として渡仏。帰国後は、挿し絵、絵本などで活躍中。『さくら子のたんじょう日』(童心社)で日本絵本賞受賞。自作絵本に『ちいさなおひっこし』(偕成社)『トトコのおるすばん』(ハッピーオウル社)『しいちゃんふうちゃんほしのよる』(佼成出版)、挿し絵作品に『あらいぐまのアリス』(童心社)『初雪のふる日』(偕成社)
『しらゆきひめ』(教育画劇)ほか多数。
※絵本より引用