真っ白な雪の世界。白と、鉛色の空に囲まれた小さな町で、
アナベルは小さな箱を拾いました。
中をのぞくと、色とりどりの毛糸がありました。
アナベルはさっそく自分の着るセーターを編み、犬にも服を編み、散歩にでかけました。
毛糸はまだ残っています。
それからアナベルは出会う人みんなに服を編み、
学校ではクラスメイト、先生にカラフルな毛糸でセーターをそれぞれに編みプレゼントしました。
まだまだ毛糸は残っているようです。
家族、近所の人、お医者さん、街中の人、動物たち、そして家やポスト、車まで、
気が付けば町の建物全てがアナベルが編んだニットになっていました。
灰色一色だった町が雪の世界で、色とりどりに輝いています。
アナベルの毛糸はたちまちに有名になり、
ある日、噂を聞きつけた王子様が海の向こうからやってきて、
この毛糸の入った箱を買わせて欲しいと懇願しました。
100万ドルでどうだ?と。
アナベルは王子様の申し出を断りました。
200万ドルでどうだ?
アナベルは首を横に振り、売りませんと答えました。
王子様はその夜、三人のどろぼうをやとい、アナベルの家にしのびこませました。
どうぼうたちが奪った毛糸の箱を王子様が開くと、中はからっぽでした。
王子様は窓から箱を投げ捨て、アナベルが不幸せになるようにのろいをかけました。
海を渡り、いつしか箱はアナベルの元に戻ってきました。
アナベルはそれからも木を編んだり、たくさんの毛糸に囲まれて過ごし、とても幸せでした。
魔法の毛糸だったのでしょうか?小さな箱からは想像も出来ない程、
アナベルが編めば編むほど、毛糸は無限に溢れでてくるようでした。
アナベルの心がおどり、歌うように、次から次へと、カラフルな毛糸が。
そしてアナベルはその不思議な魔法の毛糸の入った箱(宝物)を自分のものにせず、
みんなにその喜びを編んで分かち合いました。
王子様が自分の欲のために奪おうとしたとき、あんなにたくさん無限にあった毛糸は、
あとかたもなく消えていました。
雪の世界のモノトーンの世界で、カラフルな毛糸はあたたかく、美しく、
読者の私たちの目を惹きます。
物質的な豊かさよりも、心の豊かさを問いかける作品です。
本当に大切なものや、望むものは、誰しも心の中にそれぞれがすでに持っているのかも
しれません(*^-^*)
《著者紹介》
文:マック・バーネット
アメリカ、カリフォルニア州生まれ。”Billy Twitters and his Blue Whale Problem”など、絵本のテキストを何作も手がける。本書で、2012年ボストングローブ・ホーンブック賞を受賞。アメリカ、サンフランシスコ在住。
絵:ジョン・クラッセン
カナダ、オンタリオ州ナイアガラフォール生まれ。アニメ映画やミュージックビデオの仕事を手がける。絵本”Cats Night Out”のイラストでカナダ総督文学賞を受賞。邦訳絵本に『どこいったん』(クレヨンハウス)がある。アメリカ、ロサンゼルス在住。
訳:なかがわちひろ
東京芸術大学美術学部卒業。訳書に『どうぶつがすき』(2012年日本絵本賞翻訳絵本賞)、『105にんのすてきなしごと』(ともにあすなろ書房)など。創作作品に『かりんちゃんと十五人のおひなさま』(野間児童文芸賞/偕成社)など。
※絵本より引用
【作:マック・バーネット 絵:ジョン・クラッセン 訳:なかがわちひろ
出版社:あすなろ書房】