幼い頃に初めて読んでもらったときには、何て悲しい物語なのだろうと、
胸の奥がぎゅ~と苦しくなった覚えがある。
それからちょっと読めずにいました。
その頃の私と同じ年齢になろうとする子どもへ読み聞かせに選びました。
いろんな方が翻訳したり、絵を描いていますが、
この表紙の少女の何を見つめるでもないような空虚感と、
それでいてキラキラと輝く目に引き込まれました。
少女以外の、町を通りすがる大人たちや、大好きなおばあさんの顔は描かれておらず、
最初から最後まで少女の表情しか描かれていないのが印象的です。
少女がマッチを1本1本するたびに、その場面に現れる美しい星空も、
少女の大きな目の中に描かれていて、私たちは少女が感動している美しい星空を
実際に見ることは出来ません。
クリスマスツリーに灯った幾千の蝋燭の灯や、大好きなおばあさんの優しい顔も、
あえて描かれていません。
見えないからこそ、私たちの想像が掻き立てられます。
少女がマッチをするたびに、見えるものは、実際のものではないことを、
子どもにもわかりやすく表現しているのかもしれません。
最後少女は大好きなおばあちゃんに抱きしめられながら、
空高く光の中へ昇っていくシーンがとても美しく、何とも言えない幸福感です。
生きていると、必ずしもいい時ばかりではなく、むしろ困難の方が多いのかもしれません。
どんな時も自分の中の光を失わず、信じ続けたものだけが、神様から与えられる
幸福なのかもしれません。子どもは少女の死をまだ理解できていませんでしたが、
マッチは魔法みたいだと喜んでいました。
少女にとっても魔法のようだったかもしれません。
《著者紹介》
監修:西本鶏介
奈良県生まれ。昭和女子大学名誉教授。児童文学や児童文化に対する評論、作家・作品論、民話の研究、創作など幅広く活躍。絵本や民話の再話も多い。また坪田譲治文学賞などの選考委員もつとめる。著者は各ジャンルにわたって600冊を超える。近刊の著書に『まよなかのたんじょうかい』(鈴木出版)、「西本鶏介児童文学論コレクション(全3巻)」(第36回巌谷小波文芸賞特別賞受賞/ポプラ社)などがある。
文:やなぎや・けいこ
東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部を経て、ブエノスアイレスのサルバドール大学に留学。1981年、『はるかなる黄金帝国』(旺文社)で第28回産経児童出版文化賞大賞受賞。絵本の作品に『クリスマスのうたがきこえる』(ドン・ボスコ社)、『おばあちゃんイースターおめでとう』(日本基督教団出版局)、翻訳の作品に『こぐまたちのクリスマス こんやはねむれないよぉ』(ドン・ボスコ社)など多数。
絵:町田尚子
東京都生まれ。武蔵野美術大学短期大学部卒業。2017年、『ネコヅメのよる』(WAVE出版)で第27回けんぶち絵本の里大賞びばからす賞受賞。装画に「ペギー・スー」シリーズ(角川書店)、「ドラゴンキーパー」シリーズ(金の星社)、絵本の作品に「怪談えほん」シリーズ『いるのいないの』(作・京極夏彦)、『たぬきの花よめ道中』(作・最上一平/以上、岩崎書店)など。
※絵本より引用
【原作:アンデルセン 監修:西本鶏介 文:やなぎやけいこ 絵:町田尚子
出版社:フレーベル館】