お百姓さんの庭のぶたごやに住んでいるこぶたは、
食べることも、裏庭をかけまわることも、寝ることも大好き。
でも一番好きなのは、どろのなかに静かに体をしずめていくこと。
お百姓さんの夫婦は、こぶたをとても可愛がっていました。
あるあさ、おばさんが大掃除をしようと、最初は家の中を綺麗にしていましたが、
おうちの中がすっかり綺麗になると、今度は外が気になり、
牛小屋、馬小屋、鳥小屋、そして最後にぶたごやの大掃除です。
なんとこぶたの大好きなどろを掃除機で全部吸い上げ、どろだらけのこぶたを
お風呂に入れました。
こぶたは大好きなどろがなくなり、たまらなくなり家を飛び出してしまいました。
しばらく歩くと、沼を見つけ、こぶたは嬉しくて、飛び込みました。
こぶたは気持ちよく眠っていると、前から沼にいたいろんな生き物が、
こぶたを追い出しました。
こぶたはまたどろんこをもとめて、ひたすら歩きます。
汚いところならどろがあるんじゃないと、今度はゴミの集積場へ迷い込みます。
ゴミはたくさんあるのにどろは見つからず、また歩き出しました。
すると大きな街に出て、ここは空気も汚いので、きっと大好きなどろに出会えると
期待が膨らみます。
どろんこはすぐにみつかり、しずかに体を沈めていくと、
気が付けばやわらかいどろが硬くなり、それどころか手も足も動かせません。
どうやらどろだと思っていたのはセメントだったようです。
街の人々はセメントづけになってしまったこぶたを見に人だかりができています。
お百姓さんの夫婦は大切なこぶたを探して街までやってくると、
あまりに人が集まっているので、ちょっと見に行くとうちのこぶたがいました。
すぐに消防に連絡して助け出され、お百姓の夫婦はまたぶたごやの前にどろをつくり
ましたというお話。
子どもの頃の宝物を思い出した時に、牛乳瓶のフタだったり、かわいい絵柄のついた
ティッシュだったり、どんぐりだったり、何時間も大切に丸めたどろだんごだったり、
ねりけしだったり、大人からしたら、時には汚くて、
ゴミのような、価値がないように思えることがあります。
こぶたさんにとっては、どろんこがなによりの至福の時。大好きなもの。
お百姓さん夫婦のこぶたへの愛情が、こぶたの大切にしているものを大切に
しようとしてくれているところに、あらわれていて、読んでいてほっこりします。
そして子どもの時代に戻ったような懐かしい気持ちがします。
子どもが読んだら、ちょうどこぶたさんと同じ目線で楽しめる一冊だと思います(*^-^*)
【作:アーノルド・ローベル 訳:岸田衿子 出版社:文化出版局】