安全にヒマラヤ登山をするのに欠かせない、ヒマラヤの麓で生活している山岳民族の
シェルパのお話。
高地で田畑を耕し、ヤクなどの家畜を飼育しながら、登山シーズンになると、
観光客の荷物を運んだり、登山のサポートをしながら生活している。
毎日ヒマラヤの頂を見上げながら、いつか自分も頂上に登ることを夢見て、
荷物運びの仕事をしている。毎日重い荷物を背負って、氷河の入口まで、
行ったり来たりし、足腰もきたわってきた。でもここから先は特別な技術がなければ、
進むことが出来ない。いつかこの先へ行ってみたい。この先の景色をみてみたい。
そしてついに夢を叶える時がやってきた。
崖を自分の体ひとつで登る練習を重ね、そして命綱となるロープの縛り方を覚え、
雪の斜面を登ることができるアイゼンをはき、ピッケルを使う練習もした。
春になりベースキャンプの一番のりをして、テントを張る。
氷河の先は、はしごやロープを使いながら、落ちて来る氷や、氷の谷間に気を付けながら、
慎重に歩みを進める。山頂に近づいたころ、吹雪に見舞われ視界を遮られる。
体力も消耗してきているが、あともう少し。
真夜中ヘッドランプの灯を頼りに、一歩一歩進む。
次の瞬間雲海の上に、エベレストのかげが見えました。夜明けです。
ここより高い場所はないのだとポルパは思いました。
ついに夢にみた頂上についたのです。
涙が自然とあふれ出し、うれしさで全身がふるえます。
ベースキャンプに戻ってくると、テントの中で温かい食事と仲間が待っていました。
命がけの登山。読んでいると、一緒に険しい登山をしながら、
今を生きているんだという時間が、心の中にじんわりと湧いてきます。
厳しく、苦しい時間を耐え、たどり着く先に、どんな景色が広がっているのか。
それは実際に登ったものにしか味わえないのかもしれませんが、
ポルパが経験する時間を一緒に共有しているような気持ちになりました。
自然とともに、強く生きるシェルパの物語です。
《著者紹介》
文:石川 直樹(いしかわなおき)
写真家。絵本に『富士山にのぼる』(アリス館)、『アラスカで一番高い山』(福音館書店)など。
絵:梨木 羊(なしきよう)
イラストレーター。本書が初の絵本作品。
※絵本より引用