動物園の園内のバスを運転するおじさん。いつも動物園でイライラしている
ライオンがいました。
とうとう荒れているライオンは、さらに狭い檻の中に入れられてしまいました。
運転手のおじさんは、そんなライオンを心配し、毎日檻の近くにやってきては、
ライオンに話しかけました。ライオンはイライラと背中を向けたまま、
心を開こうとしませんでした。
おじさんは何かライオンのためにできることはないかと探し、
ある日檻の近くに柳の木を一本植えてやりました。
風にひらひらとそよぐ柳の木を見ていると、しだいにライオンの心は、
安らぎを覚え、静まっていきました。
ようやく檻の外に出されたライオンは、柳の木の下で、晴れた日も、雨の日も、
おじさんと座り、ゆったりとした時間を過ごしました。
一番のお気に入りの場所になりました。
ライオンの心は満ちて、とても幸せな気持ちでした。
そんなある日、おじさんは寂しそうに、もう歳をとったので、この仕事を離れることを
ライオンに告げると、急に歌が聴こえてきて、どうやら柳の木が歌っているようでした。
目を閉じ、歌に耳を澄ましていると、二人はアフリカの大草原で一緒に
走りまわっている夢を見ました。
それはそれはとても幸せな時間でした。
おじさんがいなくなったあとも、あの大好きな場所と、おじさんとの素敵な思い出を
胸にライオンは心穏やかな時間を過ごしています。
誰にも心許さず、荒れていたライオンを、決して見捨てたりせず、
叱ったりせず、ずっと隣で寄り添い続け、さりげない優しさで、
少しずつライオンの心を溶かしていき、絆を深めていく時間と、
寂しい気持ちや、いらだち、喜びを共有し、共鳴していくのが、
柳の木の枝や葉の、しなやかな動きとマッチし、私たちの心もそっと、
解いてくれるような作品。押し付けないさりげない優しさが、
心の中心からじーんと温めてくれる一冊です(*^-^*)
《著者紹介》
作・絵:よしざわけいこ
東京生まれ。多摩美術大学卒業。主な絵本作品に「みみずくさんのすてきないす」「くまのこ・きょねんのき」「みにくいあひるのこ」(以上、チャイルド本社)、「さくらのよる」(ひかりのくに)、「ねこのジュピター」(学研研究所)、「ひにとびこんだうさぎ」(鈴木出版)などがある。その他児童書などの挿し絵多数。日本児童出版美術家連盟会員。本作は、ブラティスラヴァ世界絵本原画展の国内選考で出品作品に選ばれた。
※絵本より引用
【作・絵:よしざわけいこ 出版社:ひさかたチャイルド】
ライオンはそよかぜのなかで (おはなしチャイルドリクエストシリーズ)