少年が橋の上からチョコレートを落とし、その茶色のかけらを食べるまで、
さかなは魚でいることに幸せを感じていた。
自由に広い水の中を泳ぎ、流れに身をまかせ、どこにでも行くことができた。
そんなある日少年が落とした、チョコレートをひとかけら食べた途端、
そのほろ苦さと甘さの虜になってしまった。
毎日、さかなはチョコレートのことで頭がいっぱい。
また頭上に茶色カケラが降ってこないか、捕らわれながら生きていく。
あの美味しいカケラを思うと、全身の力が抜けてしまうほどに。
心も体もすっかりチョコレート一色になってしまったさかな。
季節は6回めぐり、冬のある日に、魚は死んだ。
すると、生まれ変わったら今度はチョコレートが大好きな少年になっていた。
チョコレートを食べながら橋の上を歩き、チョコレートをひとかけら落としてしまった。
少年は自分が落としたチョコのかけらをさかなが食べたことを知らないというお話。
これは生まれ変わって未来ではなく、過去に戻ったのか!?
甘くて、ほろ苦くて、一瞬にして心を奪われてしまうチョコレートは、
ちょっと恋にも似ているのかもしれません。
絵本の全体の構成が淡い茶色の一色で構成されています。
大人にはバレンタインのプレゼントとしても素敵な絵本かもしれません。
果たして知らないのが幸せなのか、知るのが幸せなのか。
《著者紹介》
作:みやざきひろかず
1951年、奈良県に生まれる。北海道教育大学特設美術課程卒業後、大阪のデザイン事務所に勤務し、グラフィックデザインやイラストレーションを担当。その後フリーランスのイラストレーターとして独立するとともに、以前から興味をもっていた絵本制作を始める。1984年『ワニくんのおおきなあし』が第1回ニッサン童話と絵本のグランプリ絵本大賞を受賞、これを契機に絵本作家としての第一歩を踏み出す。ほのぼのとして作風と柔らかな水彩画は、幅広い読者層から好感を得ている。おもな絵本に『ワニくんのめざましどけい』(産経児童出版文化賞推薦)などの「ワニくんシリーズ」、『ずぶろく園』(BL出版)、『ゆっくりむし』(ひかりのくに)、『おくりもの』(クレヨンハウス)などがある。
※絵本より引用
【作・絵:みやざきひろかず 出版社:BL出版】