小さなカバの子ヒッポは、おかあさんと一緒ならどこへ行っても怖くありません。
ヒッポにとって、おかあさんさえ側いれば、怖いものはありません。
あたたかい砂地も、ひなた水も、パピルスの茂みも、
かばたちは、体を寄せ合いトロトロとのんびり時間を過ごします。
ヒッポも少しずつ大きくなって、カバの言葉を覚えるときがやってきました。
おかあさんはあいさつから、もしもの時に助けを呼ぶときの言葉や、色んな言葉を、
ヒッポに教え、一緒に練習しました。
ある日、大人のカバたちが、静かな川の温かい泥に埋まって眠っているとき、
ヒッポはひとりで、上の明るい方へと泳ぎ出しました。
水面に顔を出し、しだれかかっている木の葉と遊び始めようとした、そのとき、
目の前に現れたのは、大きな口をしたワニ。カバの子よりも体も大きなワニ。
ヒッポは急いで岸へ よじのぼろうとしました。
おかあさんに教えてもらった言葉を思い出します。『たすけて!』『あぶない!』
叫ぼうとしましたが、大きなワニはがぶりと、ヒッポのしっぽにかみつきました。
水の底へ引きずり込まれそうになります。
『グッ グッ グァオ!たすけて!』
おかあさんは、ヒッポの叫び声を聞いて、水面に顔を出し大きな口を開けると、
ワニをがぶりとくわえ振り回しました。
ヒッポは無事助かりました。
小さなカバの子が、お母さんから初めての言葉を教えてもらい、
初めてお母さん元を離れ冒険に出ける微笑ましいお話ですが、
動物世界で生きる厳しさも同時に描かれています。
ワニが登場するシーンは、子どもと一緒に息を飲み、
カバのおかあさんの口の大きさと、ワニを追い払う姿は圧巻です。
多色刷りの版画で描かれた絵は、奥行きがあり、
版画特有のとこどころ濃淡のある絵がとてもやさしくて素敵です。
水面の波紋は、木目を使用して表現されています。
少しずつ子どもの成長に合わせて、親も心配しながらも、見守る姿が、
自分の子育てとも重なります。
《著者紹介》
作:マーシャ=ブラウン
1918年、米国ニューヨーク州生まれ。アルバニー州立大学、ウッドストック美術学校を卒業。ニューヨーク市立図書館に勤めた時のお話会がきっかけで、絵本を描き始める。代表作に『シンデレラ』『あるひねずみが・・・』『影ぼっこ』(以上三作コルデット賞受賞)『三びきのやぎのがらからどん』がある。
訳者:内田莉莎子(うちだりさこ)
1928年、東京生まれ。早稲田大学露文科卒業。ソビエト・東欧の子どもの本の紹介につくす。絵本の翻訳に『おおきなかぶ』『てぶくろ』『三びきのくま』がある。
【作:マーシャ=ブラウン 訳:内田莉莎子 出版:偕成社】