奇麗な絵の表紙と、なんと言っても『の』という題に目が釘付けになってしまった。
赤いコートを着た女の子の口元も『の』と発音しているように見える。
最初の文は”わたしの”
”お気に入りのコートの”
”ポケットの中のお城の”と、
中からストーリが始まっていく。
視点が小さな世界に移るものの、
そこから想像を遥かに超えた、大きな世界へと繋がっていく。
”いちばん上のながめのよい部屋の”
”王さまのキングサイズのベッドの”
”シルクのふとんの海の船乗りたちの”
と『の』という言葉で場面が変わり、新しい視点へと繋がっていく。
小さく焦点を合わせたつもりなのに、
またそこには大きな世界が限りなく広がっていく不思議。
”音楽の先生のレッサーパンダの宝物のピアノの”
”鍵盤の廊下の途中のどちらかの扉の鍵穴の”
”トンネルの向こうの雪景色の終着駅の”
”ジャングル帰りのお父さんの”
時には異国のお城だったり、広く果てしない海だったり、宇宙だったり、
しぼんで、ふくらんでを繰り返しながら、途中もう元へ戻れないのはおろか、
このまま収束付かないまま、飽和状態になって、空中分解してしまいそうな、
危うさと不安を感じる頃、
静かに赤いコートの女の子の居場所に戻っていく不思議なお話。
全て繋がっていくのに、ひとつひとつのページにそれぞれの単体の物語があるような、
いくつもの世界を行き来して旅しているような気持ちになります。
何度読み返しても、引き込まれる独特の世界観です。
美術館の個展スペースで、じっくり一つ一つの絵を鑑賞しているようでもあります。
【著:junaida 出版社:福音館書店】