★KIKOがお勧めしたい絵本の世界★

年間200冊読んで、人にお勧めしたいと思った絵本を紹介します♪

うさぎのくれたバレエシューズ

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”バレエ教室に通い始めて5年がたつのに、女の子はおどりがじょうずになりません。

 

からだがくるくると、あざやかにまわりません。

 

手が先生のいうとおりにうごきません。

 

音楽がなれば、おどりたくて たまらなくなるのに、どうしたことでしょう。

 

お正月にも、誕生日にも、七夕にも、女の子の願いはたったひとつだけでした。

 

『どうか おどりが じょうずになりますように。』

 

すると、あるあさ不思議な小包が、女の子のところにとどきました。

 

そっと包をあけてみると、いっそくのバレエシューズが、ころがりでてきました。

 

カードにはこんなことがかかれていました。

 

「おどりがじょうずになりたいおじょうさんへ 山のくつや」

 

女の子は、そのバレエシューズを、はいてみました。

 

すると、ふいに、体がかるくなって、足がひとりでに跳ね上がって、

 

思わず外へ飛び出し、山の方へ駆けだしました。

 

そうして山のみちを、どこまでも どこまでも のぼってゆきますと、

 

大きな桜の木のなかに、くつやがありました。

 

店のなかではうさぎが、いっしょうけんめい しごとをしていました。

 

「こんにちは。わたしにシューズをおくってくれたの、あなたかしら」

 

すると、うさぎは『よくきましたね』といいました。

 

店のなかには、つくりかけのバレエシューズでいっぱいです。

 

うさぎは『これからバレエシューズを30足つくらなきゃならない。だいしきゅう』

 

うさぎは、シューズを桜色に染めるツボや、ミシンを女の子にみせました。

 

「あんた手伝ってくれるかい?」とうさぎは女の子に聞きました。

 

女の子は小さくうなずくと、うさぎは次々に仕事を頼みました。

 

女の子は言われたとおりに働きました。

 

カタカタとミシンをかけ、はさみを動かし、おひさまが高くなるころ、

 

30足のシューズがようやく出来上がりました。

 

「こんなにたくさんのバレエシューズをだれがはくの?」

 

「うさぎバレエ団のうさぎたちがはくのさ。」

 

もうバレエ団のうさぎたちが外に集まって、口々にたずねます。

 

「くつやさん、もうバレエシューズはできたかしら?」

 

うさぎのくつやさんは、30足のバレエシューズを店の前に並べました。

 

すると音楽が聴こえてきました。

 

うさぎたちは おんがくに合わせて、おどりはじめました。

 

「わたしもいれて」

 

女の子は、バレエ団の仲間にはいりました。

 

くるくるとまわり、風になって、ちょうになって、花びらになって、

 

女の子はうさぎたちと踊っているとき、ほんとうにそう感じました。

 

そうして、おどって、おどって、おどりつづけて・・・

 

ひがくれるころ、女の子はふいに、自分の体がくずれていくようなきがして、

 

草のうえに、すわりこみました。

 

するとあたりはもう、うすむらさき。

 

そしてもうだれもいませんでした。

 

うさぎの靴屋さんもありません。

 

ゆうがたのか風に、花びらが散るばかりです。

 

お家に走って帰り、きがつくと、あのふしぎなバレエシューズは、ぼろぼろでした。

 

けれども、うさぎといっしょに踊った あのときの感じは、女の子は忘れませんでした。

 

もうシューズがなくても、女の子は、風にも、ちょうにも、

 

花びらにも自由になれるのでした。

 

 

この絵本をもう何十年も大事にしています。

 

表紙も少しボロボロになってきていますが、これからも本棚から消えることはありません。

 

私の大好きな絵本です。幼い頃ウサギとピンクが好きなだけで手に取った絵本。

 

何度読み返しても、美しく、春に桜の花が満開になったときのような高揚感に包まれます。

 

大好きなのに、うまくできないこと、努力しているのに、うまくできないこと、

 

誰もが経験した悔しい気持ち。まるで春を待ちわびる長い冬のようです。

 

そしてそれがある日出来るようになった喜び、感動が、人生の春が描かれています。

 

人生で何度もくじけそうになることがあると思いますが、

 

最後まであきらめない、好きな気持ちを持ち続ける大切さを、読み聞かせを通して、

 

伝えられたらなと思います。

 

《著者紹介》

文:安房直子(あわなおこ)

1943年東京に生まれる。

日本女子大学国文科卒業。在学時代から児童文学作品を発表し、やさしさあふれるファンタジーを書きつづけている。『風と木の歌』(実業之日本社)で小学館文学賞、『遠い野ばらの村』(筑摩書房)で野間児童文学賞、『山の童話風のローラースケート』(築摩書房)で新見南吉児童文学賞を受賞する。

 

絵:南塚直子(みなみづかなおこ)

1949年和歌山県に生まれる。

津田塾大学卒業後、ハンガリーで油絵と銅版画を学ぶ。1982年から児童書の仕事にたずさわる。絵本に『やさしいたんぽぽ』『こぎつねでんしゃはのはらゆき』(小峰書店)、『わたしのあかいぼうし』(岩崎書店)などがある。『うさぎ屋のひみつ』(岩崎書店)で赤い鳥さし絵賞を受賞する。

※絵本より引用

【文:安房直子 絵:南塚直子 出版社:小峰書店

 

 


うさぎのくれたバレエシューズ (えほん・こどもとともに)