モンゴルの遊牧民の暮らしを描いた絵本。
アローハンという名の少女と、羊のホンゴルとの絆の物語。
子どもの時から一緒に育ち家族同然に暮らしてきたふたり。
四季の移り変わりとともに、水を求め、牧草を求め、
家畜とともに大草原を移動しながら生きていく遊牧民の暮らし。
風が強く吹く日も、雨の日も、厳しい冬も、命を守りながら、育てながら、
命を繋ぎながら、遊牧民にとっての財産は命なのだ。
そこに生きる家族、そして馬や羊など家畜たち、すべての生き物、命が、
遊牧民にとって一番大切な財産となる。
厳しい気候で、亡くてしてしまった命もたくさんある。
生きていくためには、大切に育ててきた家畜の乳を飲み、肉を食べないわけにはいきません。
でも特に深い絆で結ばれた、殺して食べてしまうことができない家畜には、
神様や仏さまにお供えするという名目で殺さない方法を考え、
印をつけるそうです。
深い悲しみも、壮大な大地に吹く風とともに、青い空に浮かぶ雲とともに、
少しずつ時間の経過とともに癒されていく。
厳しい自然の中で生きていく、たくましいモンゴルの人々。
墨汁で表現されているページも多く、色調はモノトーンで落ち着いていますが、
強い風が吹く抜ける情景や、馬が力強く草原を走り抜ける姿が、
墨汁によって映像のように見えてきます。
時々青い空が広がるページは、モンゴルの壮大な自然を感じることができ、
モンゴルの大地の真ん中に立ったようなスケールの大きさを感じる作品です。
《著者紹介》
作:興安(ヒンガン)
1973年、内モンゴルの都市フフホトに生まれる。1992年、内モンゴル師範大学美術科に入学。大学では油絵、大学院では水墨画を専攻。大学院卒業後、草原の町の小、中学校で遊牧民の子どもたちに美術を教える。日本画に魅了され、2001年来日。2002年、東京学芸大学の研究生として日本画研究室に入り、2004年には、同大学院に進む。2006年、
教育学研究科美術教育専攻課程を修了。『子どもに語る モンゴルの昔話』(こぐま社)では扉絵を担当した。今作品が初めての絵本となる。高校時代に作った詩を元に、この物語の構想が生まれ、水墨画の手法で絵が描かれた。
文・解説:蓮見治雄(はすみはるお)
1969年、東京外国語大学院アジア第一言語修士課程修了。元・東京外国語大学モンゴル
語科主任教授。モンゴルの言語、文化、口承文芸など多岐にわたって造詣が深く、この絵本では本文、解説文の他、全体にわたって監修的な役割も果たしている。著書に『チンギス・ハーンの伝説 モンゴル民話研究』(開明書院)、『子どもに語る モンゴルの昔話』(こぐま社)などの他、モンゴル語で執筆、出版された著書、論文も多数ある。「日本モンゴル学会」理事。NPO法人「みんなで創る東北アジアの会(TAK)」代表。
※絵本より引用
【作:興安 文・解説:蓮見治雄 出版社:こぐま社】