世界傑作絵本シリーズのデンマークの絵本。
小さなきかんしゃは、遠くまで走ることができません。
いつか隣町へ行ってみたいと思いながら、旅行している自分を想像していました。
そんなある日、機関士さんの目を盗んで、小さなきかんしゃは一人で走り出しました。
駅のホームを向け、いろんな景色が見えます。
重そうなものを運んでいる人や、牧場にいる男の子、こうし、走るうま、
こひつじややぎなどの動物、草原。
小さなきかんしゃは駅に差し掛かった時に、駅長さんがポイントを切り替え、
あっという間に線路から飛び出してしまいました。
道なき道を走りだし、野原を渡り、庭を通ると、イェンセンさんのおうちの玄関に
向かってまっしぐら。
ドアを開け台所に入ると、イェンセンさんは食事を作っています。
まったく機関車には気づいていません。
イェンセンさんは機関車のピーという警笛の音を聴いて、振り返りびっくり。
機関車も無我夢中で走り出し、裏口をやぶって飛び出しました。
裏庭の洗濯物のほし竿をさらいとり、もみの木も乗せて行きました。
そのまま隣の町へ。
胸をはずませながら、あこがれの隣町を走り抜けます。
通りの人々は洗濯ものともの木を積んだ機関車にあっけにとられています。
そのうちに、いつの間にか線路に戻っていました。
トンネルを抜けると、高い鉄橋の上を走っていると、見覚えのある場所に。
イェンセンさんのうちの前で、コトンと洗濯物のほし竿が落ち、
見事イェンセンさんはパリパリに乾いた洗濯物をキャッチしました。
もみの木は牧場に落とし、石炭もなくなり、もう走るのは限界になったころ、
今朝の出発場所にたどりつきました。
小さな機関車のながいながい旅の1日。
小さな機関車は今も、毎日まじめに働いていますが、
ふとした時に、旅行に出たあの日のことを思い出します。
いつも決められた線路の上を、時間を守って走る機関車。
いつか自由に行きたい場所へ行ってみたいという夢を叶え、
機関車はその思い出だけで、走っていける。
想い出だけで、生きていけるという言葉を思い出します。
きっと一人で自由に走るとき、いつもの駅も、景色も色鮮やかにうつったに違いありません。
その特別な1日も、日々の暮らしがあるからこそ、キラキラ輝く、
特別な思い出になるのだろうなと思いました。
機関車が自分の意思で走り始めるお話は他にもありますが、線路をはずれて、
道なき道をゆく姿は、すがすがしくも、頼もしくも感じ、開放感があります。
家の中に迷い込んで入ってしまうところも意外性があって、この絵本ならではと思います。
《著者紹介》
作・絵:イブ・スパング・オルセン
1921年、デンマークのコペンハーゲンに生まれました。ブローゴー教員養成所、王立美術大学(グラフィックアートを学ぶ)を経て、その後9年間教師をしました。1960年ごろから雑誌のイラストレーションを描き始めましたが、やがてさし絵画家となり、小説・詩などのさし絵を多数描きました。のちに自分でも文章を書くようになり、今日に至っています。国際アンデルセン賞(画家賞)をはじめ数々の賞を受賞し、数カ国で出版されるなど、デンマークのすぐれた絵本作家の一人として活躍しました。代表作には
『つきのぼうや』『ぬまばばさまのさけづくり』(以上、福音館書店)のほかに、『キオスクおばさんのひみつ』『ネコ横丁』(以上、文化出版局)などがあります。2012年没。
※絵本より引用
【作・絵:イブ・スパング・オルセン 訳:やまのうちきよこ 出版社:福音館書店】