鳥取に伝わる昔話。
むかし、山の村に、若いきこりがおり、いい女房をもらったとたん、
働きに行かず、ずっと家にいるようになったそう。
きこりは、あまりにいい女房だから、ずっと側にいたいと言い出す。
女房は、絵描きに自分の姿を描いてもらことを思い付きました。
旦那に自分の絵姿を持たせ、仕事に行かせました。
旦那は久しぶりに昼過ぎまでまじめに働き、
ずっと女房の顔を見ていないなと、おもろに絵の女房を取り出し見ていると、
その大切な絵を、山の風がさらって持って行ってしまいました。
一瞬の出来事で、どこを探しても絵は見つからず、
落ち込んで家に帰ってくると、女房はまた描いてもらえば大丈夫と言いました。
そしてしばらくして、絵は、お城の門前に落ち、門番が広い、あまりの美人に、
大騒ぎ。
お殿様もその騒ぎを聞きつけ、絵を見ると、すぐにこのモデルになった女性を探すように
家来に命令します。
そして何日かして城の者が、きこりの女房を連れ去っていき、女房はお殿様の奥方に
なりました。3年の月日が経ち、いつまでも忘れなれないきこりのところに、
お城でお盆のおどりをすることを聞き、きこりはお城へ忍び込みます。
そして自分がお殿様と、奥方(女房)のために踊ると、奥方がにっこり笑顔になります。
お殿様はこの3年間、奥方が笑ったところを見たことありませんでした。
きこりの格好をしている男を見ては笑う奥方を見て、
お殿様は、自分の袴ときこりの衣装を取り換えることにしました。
そしてきこりに成りきって踊るも、まったく奥方は笑いません。
そのうちに踊りの披露の時間は終わる、踊っていた人は城の外に追い出されました。
殿様の格好をしているきこりは中に残り、きこりの格好をしているお殿様は誰にも気づかれず、
追い出されてしまいましたというお話。
何とも少し滑稽なお話です。お殿様が着るものが変わっただけで、
家来も門番も見分けがつかないのですから。
人間の外見に惑わされてしまう浅はかなところを、揶揄されているようです。
そして逆に絵姿女房は、きこりと暮らしていたときによりも、
はるかに良い衣装を着て、良いものを食べて、良い地位についているにも関わらず、
幸せそうな顔を浮かべることなく3年間過ごし、
きこりと再会したときに幸せそうな笑顔を浮かべ、3年という月日の間、
忘れることなく、互いを想い合った夫婦の絆が描かれています。
色調も日本の色を使われていて、美しい日本画にうっとりします。
【再話:稲田和子 画:畠中光享 出版社:福音館書店】