著者のやしまたろうさんが出会った二人の恩師がモデルとなってできた作品。
勉強に興味が持てず、クラスに馴染めない男の子がいました。
クラスに友達もおらず、その男の子の名前すら皆知りませんでした。
たったひとりで、六年間1度も休まなず通った男の子。
勉強は興味が持てなかったが、その男の子には特技がいっぱいあった。
学校の裏庭に育つ花や、作物の名前や場所をよく知っているし、
絵は上手で、カラスの繊細な鳴き声の違いを聞き分け、忠実にマネすることができた。
先生は少年の生活環境を知り、その上で、彼の特技、存在を認め、尊敬し、
それをクラスの子の前で披露する機会を与えた。
クラスの子たちも、少年がどんな思いで、六年間過ごしてきたか、
どんな暮らしをしているかその背景を知り、涙した。
教育現場で普段の授業を受ける上で、ひとりひとりの背景まで鑑みて、
指導しなくてもいいのかもしれないが、ただ教科書を開いて、文字を書いて、
勉強する場としての学校だけでなく、お互いのアイデンティティを尊重しながら、
それぞれが生まれた環境など違っても、優劣はなく、それぞれに素晴らしい存在で、
生まれてきたことに価値があるのだという、道徳的な教育、教育の在り方を、
改めて考えるきっかけになる一冊。
こんなに親身にひとりひとりを見れる先生がいるだろうか?
先生の仕事も多岐にわたり、手いっぱいな教育現場。
いつの間にか先入観や、偏見で、物事の価値を測ってしまっている自分に気が付く。
綺麗事が綺麗事じゃなくなるといいと願う。
人が平等に存在する価値を見出せると世の中になるといいなと思います。
《著者紹介》
文・絵:やしまたろう(本名 岩松 淳)
1908年鹿児島県に生まれる。軍事教練を拒否して東京美術学校(現・芸大)を退学。日本プロレタリア美術家同盟に参加し、美術研究所の講師を勤めたり、風刺漫画を描く。
1939年渡米。1943年に自伝絵物語『あたらしい太陽』(邦訳は晶文社刊行)を発表。
戦後、故国での体験に基づいた絵本『村の樹』『道草いっぱい』『からすたろう』等をアメリカの出版社から発表し、『からすたろう』『あまがさ』(邦訳は福音館)『海兵物語』の三作がコルデット賞(アメリカの絵本に与えられる最高の年間賞)の次席となる。一方1972年フランスのデヴィエ国際美術展に於て、「吹雪の窓」「児童・春夏秋冬」などの作品六点をもって、グランプリ・大賞画家となる。1977年脳溢血で倒れ、
療養のかたわら、八島美術研究所の強靭をとり、自由律句の会「やからんだ乃会」を主宰。1994年ロサンジェルスにて病没。
※絵本より引用
【作・絵:八島太郎 出版社:偕成社】