おばあさんが亡くなって、おじいさんはすっかり元気をなくてしてしまいました。
食事も喉を通らず、1日中家の中で、ぼんやり過ごしています。
ある日、おじいさんは、毎日パンと牛乳を少し食べて過ごしていましたが、
またおばあさんが作ってくれた、おだんごスープが飲みたいなと思い、
自分で思い出して作ってみることに。
久しぶりに外に出て、スーパーでひき肉を買ってきました。
一人分なので5つあるお鍋で一番小さな鍋を使って、スープを作ることにしました。
ひき肉に塩コショウ、丸めてお湯の中へポトン。バターと塩コショウで味を調えれば、
完成。
すると、ドアを小さく叩く音がしました。ねずみのお客様が3匹、
スープのおいしい匂いに誘われてやってきました。
おじいさんは小さなお皿を3つ出して、ねずみにスープを入れてあげました。
鍋にはほんの少ししか残っていませんでしたが、おじいさんはお皿に入れて、
食べました。おばあさんのスープはもっと、美味しかったなぁと思いました。
それから毎日おじいさんは、おばあさんの思い出のスープを作りたくて、
記憶をたどりながら、ジャガイモを入れて一緒に煮てみたりしました。
その度に小さなお客さんは増えていき、少しずつ5つあるお鍋の大きさも、
大きくしていきました。
またその次の日には、じゃがいもと、たまねぎ、にんじんを加えて煮ます。
おじいさんのスープを食べに、最後は、子どもが10人、ねずみが3匹、猫が1匹、
犬が1匹、全部で15枚のお皿を出しました。
一番大きなお鍋で作りましたが、スープはまたわずかしか残りませんでした。
ようやく、おばあさんと同じおだんごスープの味になったなぁと、
おじいさんは嬉しくなりました。
明日は、5つの鍋全て使ってスープを作ろうとおじいさんは笑顔で言いました。
おばあさんが亡くなって気力をなくしていたおじいさん。
おだんごスープの味を思い出していくうちに、おじいさんの表情が明るく、
生き生きとしていく姿が、とても印象的でした。
たくさんのお客さんが家に訪れ、おばあさんの思い出のスープをみんなが、
おいしいと食べる姿は、おじいさんにとっての生きがい、楽しみになっています。
スープを作り、毎日誰かに食べてもらうことで、おじいさんは、おばあさんのいない
日々を少しずつ乗り越えていこうとします。味わい深く温かいお話です。
《著者紹介》
文:角野栄子(かどのえいこ)
東京に生まれる。早稲田大学卒業。出版社に勤めた後、1960年にブラジルに渡り2年間在住。帰宅後、絵本や童話の創作を始める。『わたしのママはしずかさん』(偕成社)『ズボン船長さんの話』『魔女の宅急便』(福音館書店)など作品多数。野間児童文芸賞、サンケイ児童出版文化賞、路肩の石文学賞などを受賞。
絵:市川里美(いちかわさとみ)
岐阜県に生まれる。1971年パリに渡り、その後独学で絵を学ぶ。優しく生き生きと描かれた子供や自然描写に独自の世界を持つ。『春のうたがきこえる』『はしって!アレン』『ドクター・ジョンの動物園』(以上偕成社)など作品多数。講談社出版文化賞絵本賞、サンケイ児童出版文化賞美術賞を受賞。
※絵本より引用