ふうせんの一つ一つに思い出が詰まっている。
ぼくの風船よりも弟は少なくて、パパやママは多い。
おじいちゃんは、抱えきれないほどの、もっともっとたくさんの風船を持っている。
僕はおじいちゃんのカラフルな風船を一つずつ指をさしながら、
その風船の思い出を聞くのが楽しみなのだ。
そして僕の銀色の風船はおじいちゃんと、おそろい。
おじいちゃんと日が暮れるまで川で魚を釣りに行った、大切な思い出。
でも、僕は、最近心配なことがある。
おじいちゃんは、何度も同じ話をしたり、
大切な風船を飛ばしてしまっても、気づかなかったり。
僕はおじいちゃんが手放した風船を追いかけるけど、うまく取れない。
おじいちゃんが風船を手放すたびに、たくさんの思い出が抜け落ちていってしまう。
ついに、おじいちゃんは、特別な銀色の風船まで飛ばしてしまった。
僕は悲しくなって、泣いた。
すると、おじいちゃんは『ぼうや、どうしたんだね。かなしいことでもあったのかい?』
ってまるでよその子に話しかける口ぶり。
僕はたまらなく悲しくなった。
とうとう、おじいちゃんは最後の風船まで全部飛ばしてしまった。
おじいちゃんと呼んで話しかけても、振り向かなかった。
パパとママは、いつの間にか僕の風船が増えていることを教えてくれた。
そして”『おじいちゃんの おもいでのふうせんは すべて あなたのものよ』”と。
僕はそれから、おじいちゃんにたくさんの風船の話を毎日しました。
認知症になってしまうおじいちゃんと、周りの家族がどうとらえ、
どう現実と向き合っていくかを教えてくれる絵本です。
色鮮やかな思い出の風船だけがカラフルで、あとの背景がモノクロになっているので、
その分、家族の大切な思い出が引き立ちます。
忘れていってしまう怖さ、忘れられてしまう悲しさ、
でも家族みんな何もかもを失ってしまうわけではないんだということを、
絵本が優しく語りかけてくれているようです。
認知症を介護する家族(大人から子どもまで)幅広く読んでもらいたい一冊です。
【作:ジェシー・オリベロス 絵:ダナ・ウルエコッテ 訳:落合恵子
出版:絵本塾出版】